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UCバークレー留学記

カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)での思考の記録。

政策を考えるときの2つの軸 ②: 政策と政治

phdryugaku.hatenablog.com

 

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続きです。あまり長くならないように(講演や研修で10分程度で説明するイメージ)、実務家の方や政策立案に興味のある方に向けた頭の整理として、4つの軸をご説明します。

この4つの軸は、どれを欠いても政策として不十分なものになってしまいます。ですので、政策を考えるときのチェックリストとして使うことができます。

 

まず、すべての出発点は政策(Policy)です。ここで政策は、「公的な問題を解決するための手段」、あるいは「公的な目的を達するための手段」と定義します

政策を立案・実施し、公的な問題を解決することは国や地方自治体などの行政機関の存在意義といえるでしょう。

 

政策を作る際には、問題の構造を分析し、その原因を突き止めること(政策立案の8ステップのステップ1)。そのうえで、幅広い政策ツール(同付録B参照)の中から長所短所を踏まえて適切なものを選び出し、それらを組み合わせて政策案を設計し(ステップ3)、それらを共通の基準でもって比較(ステップ4、5)したうえで決定します(ステップ6、7)。

政策立案は、こういった一連の手順を踏んで行われます(政策立案の技法にその方法論が体系的にまとめられています)。

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このような仕事であれば、各分野の専門家がその解決に当たればよいと思われると思いますが、実際に出来上がる政策は、そういった専門家の方々がこうすべきと考えるものとは異なるものになることが多いと思いませんか。問題も、ありうべき解決策もだいたいわかっている。しかしそのようには進んでいない。その大きな理由の一つが、あらゆる政策は政治過程(Politics)によって合意される必要がある(政治の中で生まれる)ということにあります。

 

ここで、政治とは国会や地方議会だけを指しているわけではなく、中央省庁や自治体、企業、自治会や住民等を含む幅広い利害関係者による合意形成・調整のことを指しています。

政策は、徴税、規制や税制、財政支出等を通じて、一度決定されてしまうと好むと好まざるとにかかわらず、幅広い層に影響を与えます。このためにその調整・意思決定の過程においてそれらの関係者を巻き込んで調整・合意形成を行うことになっています。

民間企業が実施する事業と、公的機関が実施する政策の違いはなんでしょうか」、という質問を、民間企業から自治体に転職された方に聞かれたことがあります。その一番の違いは、この政治プロセスにあるといえるでしょう。

政策立案の技法において、著者のバーダック教授は、政治プロセスについて次のように述べています。

政策立案において、以下の事実がかすむことがあってはいけない。すなわち、政策は、知的側面とはまったく関係のない、「公共の利益」を必ずしも考えていない、多様な利害関係者の駆け引きのプロセスによって決まる。(中略)政治的なプロセスを経て、期限が来た瞬間にあなたの提案が十分な支援をあつめられれば勝ち、それができなければ負けということだ。

これは、同書を通じて政策立案の知的な側面を強く印象付けられた読者を現実に引き戻すための注意喚起といえるでしょう。

 これを政策立案の技法で用いられる成果表(Outcome Matrix)で説明してみます。

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 冒頭に書いた通り、政策は問題解決の手段です。このため、その問題が解決できるかどうか、ということが政策にとって最も重要なことであるはずです。

他方で、あらゆる政策は政治過程を経て生み出されるため、問題が解決できるかどうか、という評価基準(成果表の一番左の列です)とその費用(費用便益やB/C比といわれるものです)に加えて、多様な利害関係者が重視するその他の側面にも対処していかなければいけません。 

政府や業界団体などの政策アクターが、お互いの動きを予測する分析を、利害関係者分析(Stakeholder Analysis)と呼ばれます。

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関係者との調整のなかで、提案する政策の支援を得、反対を中立化することが、政治プロセスの要諦です。多様な利害関係者との調整の中で、もともとの政策が大きく変化していくのはふつうのことですし、政策立案の技法においても、「情報収集は政治的なプロセスである」と述べられています。

 

政治プロセスを「通す」エネルギーを持った政策を作り、合意形成をしていくことは、複雑な連立方程式を解くようなものです。降りるべきところはおり、しかし守るべきところ(すなわち政策目標)は守る。そうしたことができれば、本来の目的である、問題解決に貢献する政策となります。他方で、合意形成を優先するゆえに本来の目的を失った政策は、「骨抜きにされた政策」というクリシェで表現されます。

私がUCバークレーの公共政策大学院(Goldman School of Public Policy)に入学した際、当時の暫定学長は、政策を「アイデア」、政治を「パワー」と表現し、アイデアによってパワーのプロセスを突破せよ、というようなことをおっしゃっていました。そしてゴールドマンスクールは、アイデアを重視しているのだと。このことは、

Speaking Truth to Power

というゴールドマンスクールの校訓(motto)に表れています。

 

余談ながら、公共政策大学院は、policyとpoliticsのどちらかを特に重視することが多いものの、コアの構成としては必ず両方の科目を必修科目として学びます。ゴールドマンスクールのMPP場合、Political Agency ManagementとLeadership and Social Changeが、Politics側の必修科目でした。さらに余談ながら、卒業後に行政官として実践的ですぐ業務に使えたのは、そうした科目の方でした。

 

続きます。

 

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www.slideshare.net

 

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