UCバークレー留学記

カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)での思考の記録。

炭素の社会的費用(Social Cost of Carbon: SCC):気候変動政策・研究の新たな潮流

sites.nationalacademies.org

 

炭素価格というと、これまで環境政策に取り込んできた人間にとっては、二酸化炭素の削減コストとの関係(注)を思い浮かべますが、アメリカでは気候変動による社会的な費用(影響)を政策や経済モデルに統合していく取り組みが進んでいます。アメリカの連邦政府は、すでにこういった費用を計算し、自国の政策に組み込んでいるとのことです。

(注:これまで「炭素価格」という言葉は、削減目標を達成するための二酸化炭素の限界削減コスト(例えばP円/t-CO2としましょう)を計算し、二酸化炭素を排出する活動にP円/t-CO2に相当する税などをかけると、家計や企業はP円/t-CO2を払うのを避けるためにPi < Pとなる削減手段 i を自発的にとるだろうから、そういう炭素価格Pを税金としてかけて、みんなに二酸化炭素を削減してもらいましょう、という文脈で使われていました。つまり、気候変動の影響ではなく、二酸化炭素削減のためのツールとしての価格付けでした。)

 

気候変動(地球温暖化)は、気温や海面上昇、干ばつや山火事、台風の増加など、様々な影響を通じて経済的な費用となります。簡単にいうと、そういった費用を計算したものが、炭素の社会的費用といえるでしょう。概念的にはこれまでも主張されていましたし、Stern教授のスターンレポートなど、実際にその費用を計算した著名な研究も存在します。今回のアメリカの動きは、連邦政府がそれを計算し、実際の政策に影響を与えるという意味で、個人的に大きな驚きを感じています。

バークレーでも自分の所属する公共政策大学院のHsiang教授をはじめ、多くの研究者がこのプロジェクトの中心メンバーになっています。自分の指導教官がしきりにこの話をしていたのに、いまいち話がかみ合わなかったのは、自分が削減コストのことだと思い込んでいたからだったのか。。

 

これからパリで気候変動の国際交渉が始まりますが、現在の各国削減目標では、いわゆる2度目標を達成することは難しいことが国際機関等から報告されています。そうすると、相当程度の気温や海面上昇、干ばつや山火事の増加等を所与として、各国で様々な対策を打っていく必要があります。そういった対策を効率的に組み立てていくためのツールが、この炭素の社会的費用(SCC)というわけです。この費用よりも対策(堤防を作る、灌漑設備を増強する、干ばつに強くなるように農作物の品種改良をするなど)費用のほうが小さければ、その対策を打つことが合理的です。


これまでは温室効果ガスの削減(いわゆる「緩和政策」)が温暖化対策の主役でしたが、これからは削減に加えて、気候変動が進行することを前提として人間の社会経済活動をどのように変えていくか(いわゆる「適応政策」)との二枚看板としていくべきことが鮮明になってきました。

 

前出のHsiang准教授は、気候変動が紛争や所得などの社会経済的因子にどのような影響を与えるのかを計量的(統計的)に分析し、明らかにしてきた若きスターです。これまでに日本でも主要紙で大きく報道されてきたのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。今後は気候変動の社会、経済、自然への影響を統計・

実証的に明らかにする研究がますます盛んになっていくように思います。

 

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Study finds climate change will reshape global economy | News Center | News Center | Goldman School of Public Policy | University of California, Berkeley

 

例えばこの図は、Natureに掲載された、気候変動がGDPに与える影響を要約したHsiang教授の研究の一つの結果です。赤がGDPに対してマイナス、青がプラスです。気候変動の悪影響を特に大きくに受けるのは、見てのとおり、東南アジア、南アジア、中南米、アフリカなどの新興国、途上国です。そしてこういった国々は、先進国のように気候変動に適応する資金も技術も持っていないのが現実です。こうした環境的公正(Environmental Justice)の部分も、今後の気候変動国際交渉の大きな争点となっていくでしょう。

(ロシアやカナダやヨーロッパは気候変動によってプラスの影響を受けるんですね。。)

 

温暖化対策も、いよいよ次のステージに移ってきたようです。