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UCバークレー留学記

カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)での思考の記録。

映画 The Big Short (邦題 マネー・ショート)の感想

映画The Big Short(邦題マネー・ショート)を見た。原作は読んでいたけど、それでも十分面白かったし、考えさせられた。 自分はスティーブ・カレル(Steve Carell)のファンなのでより楽しめた(テレビドラマ"The Office"(米国版)は超おすすめです)。

 

youtu.be

 

www.moneyshort.jp

 

以下、感想(ネタバレなし)。

 

本作のテーマであるサブプライムローン、エンロン事件、日本のバブル。後から振り返ると、なぜあんな馬鹿なことが、としか思えない狂騒が繰り広げられる。しかし、その様子を子細に見ると、同じような構造が見て取れる。

 

その渦中では、多数が思考を停止し、情報に基づく事実ではなく信じたいことを信じ、「権威」がそれを追認し、発信し、思考停止は加速する。心理学でいう、確証バイアス(confirmation bias)である。

 

ここで最も罪深いのが、政府や格付け会社等の「権威」がそれぞれのインセンティブに従って、「不都合な真実」を隠ぺいし、大衆が見たい将来を見せてしまうことだ。いわゆる大本営発表だ。

 

 とはいえ、じつはシグナル(情報)はそこにあり、サインを見落とさず、その意味を理解できる人間も一部いる。本作では、住宅バブルが起きていることをデータや足で確認した、ひとくせもふたくせもある投資家たちが、住宅バブル崩壊にかけ、本来の機能を失った金融市場を通じて、2016年現在に至るまで爪痕を残す世界不況を引き起こしていく状況を人間臭く描いていく。

 

なお、太平洋戦争時の日本も、現在の日本の財政、社会保障、少子高齢化も近い構造にある。

 

本作では、住宅バブルをショートするためのCDSsを主人公自ら提案し、そこから生まれたCDOを使って住宅バブルの崩壊に賭ける。我々はわかりやすくこうした金融商品にベットしているわけではないが、実は我々も意識的、無意識的に様々な社会の動きにかけている。どこに就職するか、どの仕事をするか、どこに住むか、 といった行動によって、自分の時間や家族の将来という、数億円に相当する暗黙のベットをしているわけだ。

 

ひどすぎる人たちがたくさん出てくるこの映画、一番悲しいなあと思ったのが、格付け会社を訪れた場面。本来、彼らが市場で果たすべき役割は大きく、公共性の高いもの。しかし、実態は中身を何も理解せず、自分たちがよい格付けをしなければ、競合がよい格付けをするだけ、という理由でジャンクともいえるCDS、CDO等に不相応に高い格付けを与え続ける。その何の裏付けもない格付けが、投資家たちの判断基準となりバブルを生みだした。確かに我々はインセンティブの奴隷だが、格付け機関という金融界の生態系の弱者が開き直ることの悲しさを見せつけられた。

 

リーマンショックのようなシステムの瓦解(collapse)は、10年かそこらに一度必ず起きるし、止めようがないことかもしれない。日本もこれから難しい局面に立たされるだろう。とはいえ個人がシステムの瓦解と心中してはいけない。信頼に足る情報を集め、頭を働かせて、様々な手段でそのリスクから自分たちを切り離す(insulate)ことこそが、現実的に各個人がとるべきことではないかと思っている。

 

余談1)本作の原作を書いたマイケル・ルイスはバークレー在住。一度あってみたい。

余談2)本作では、マークトウェイン等の著名な作品の引用がところどころで使われるのだが、重要な場面で村上春樹の1Q84が出てきたのは個人的にツボだった。

Everyone, deep in their hearts, is waiting for the end of the world to come. 1Q84, Haruki Murakami

余談3)マネー・ショートって不思議なタイトルだな。。

 

とてもおすすめ。

 

www.amazon.co.jp